2024年11月27日に行われた第50回衆院選で、国民民主党が大躍進を遂げました。改選前の7議席から28議席に増え、今後の政策実現に大きな影響を与えることが期待されています。特に注目されているのが、年収103万円の壁を178万円に引き上げるという政策です。
ただこの壁、実は主婦のパートや学生のアルバイトだけでなく、共働き世帯、シングルマザー、独り身の労働者、つまり働くすべての人々に恩恵をもたらす政策であることはご存じでしょうか?
このブログでは、そのあまり知られていないポイントについて、すこし詳しく解説していきます。
103万円の壁って何?
そもそも、「103万円の壁」って何?と思う方もいるかもしれません。「103万円の壁」とは簡単に言うと、年収が103万円を超えると所得税がかかるようになる制度のことです。この103万円というのは、基礎控除額と呼ばれるもので、これを超えると税金がかかる仕組みになっています。
また、年収が103万円を超えると、親や配偶者の扶養控除が適用されなくなり、扶養者の税負担が増えるという別の問題もあります。このため、多くの学生や主婦のパートタイム労働者がこのラインを超えないように働き方を調整しており、これがいわゆる「103万円の壁」と呼ばれる理由にもなっているのです。
しかしこの基礎控除額は、パートやアルバイトの働き控えだけではなく、憲法の生存権とも関係する、全労働者にとって大変重要な目的をもって定められた大切な制度なのです。
以降でそれを少し詳しく見ていきましょう。
憲法第二十五条と基礎控除
では、この税金のかからない所得ラインである基礎控除額とはどういう目的を持って定められているものなのでしょうか。
制度的には、これは基礎的な人的控除(基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除及び扶養控除)とも呼ばれ、憲法第二十五条が定める生存権の保障を目的としたものと解されています。つまり、健康で文化的な最低限度の生活を維持するために必要な収入は、税金をかけてはいけないという考え方から来ているのです。
つまり、課税最低限の所得額のラインが基礎控除額と呼ばれるものになります。
このような性質を有する課税最低限の所得額ラインは、本来、その国の物価や最低賃金、経済状況、財政事情を考慮しつつ、生活保護の水準に合わせていくことが望ましいといわれていますが、日本では30年間据え置きのままとなっているのです。
基礎控除引き上げの意義
国民民主党の玉木雄一郎代表は、基礎控除額を178万円に引き上げることで、国民の手取りを増やすことを目指していると主張しています。これは、単に税金を減らすだけでなく、先にも述べた憲法の保証する最低限の生活の質を向上させるための重要な政策ともいわれています。
例えば、経済学者の髙橋 洋一氏の試算では、ドイツでは基礎控除額が約163万円、フランスでは約168万円、イギリスでは約214万円、アメリカでは約280万円です。これに対して、日本の103万円という基礎控除額は低く、国民の生活を圧迫しています。
もちろん、この日本円での試算には購買力平価での比較ではないと意味がないという意見があるので、それでも計算してみました。
各国の基礎控除額(購買力平価調整後)
購買力平価(PPP)を用いることで、各国の基礎控除額をより公平に比較することができます。以下に、各国の基礎控除額を購買力平価で調整した場合の比較を示します。
1. ドイツ
- 基礎控除額:約9,744ユーロ
- 購買力平価(1ユーロあたり):約1.1ドル
- 調整後の基礎控除額:約10,718ドル(約117万円)
2. フランス
- 基礎控除額:約10,225ユーロ
- 購買力平価(1ユーロあたり):約1.1ドル
- 調整後の基礎控除額:約11,248ドル(約123万円)
3. イギリス
- 基礎控除額:約12,570ポンド
- 購買力平価(1ポンドあたり):約1.3ドル
- 調整後の基礎控除額:約16,341ドル(約179万円)
4. アメリカ
- 基礎控除額:約13,850ドル
- 購買力平価(1ドルあたり):1ドル(基準)
- 調整後の基礎控除額:約13,850ドル(約150万円)
5. 日本
- 基礎控除額:約103万円
- 購買力平価(1円あたり):約0.009ドル
- 調整後の基礎控除額:約9,270ドル(約103万円)
購買力平価で調整しても、日本の基礎控除額が他の先進国に比べて低いことは変わりません。こうしてみると、日本の労働者が直面している経済的な負担がわかりやすいですね。
財源の問題と経済への影響
「でも、税収が減るんじゃないの?」と思う方もいるでしょう。諸説ありますが、財務省からの情報によると、基礎控除額を引き上げることで、政府は国と地方合わせて7.6兆円の税収減になると試算しています。
しかし、これは逆に言えば、国民の手取りが7.6兆円増えるということでもあり、かなりの規模の景気対策になると考えられます。そのため、経済成長による税収増も見込まれるため、7.6兆円がそのまま税収減になるとは限りません。
また、この基礎控除の引き上げは、恒久的な減税となるため、給付金と違って貯蓄に回す割合は少ないと推測され、国民が生活レベルを上げることによる消費の拡大や企業収益の改善、また賃金の上昇から消費のさらなる拡大という好循環が実現し、名目成長率が高まりやすくなります。名目成長率が高まれば、税収は名目成長率よりも高いスピードで増加するので、減税分の税収ロスは税収増加によって帳消しになることも考えられます。
さらにいえば、国の財政状況を考えると、日本はG7の中でも財務状況が良好であり、総資産は世界一の630兆円に達しています。これらを考慮すれば、基礎控除額の引き上げは十分に実現性のある政策ではないでしょうか。
社会保険料の問題(106万円の壁)
ところで、103万円の壁と並んで良く話題にあがる壁に「106万円の壁」というものがあります。これは年収106万円を超えると社会保険料が発生し、手取りが減っていしまうというものですが、この議論については別の視点が必要ですので、これは別途取り上げ、要点を整理しながら考えるべきものではないでしょうか。
なぜなら、ひとつ確実に言えることは、社会保険料は単なる税金ではないからです。これは将来の年金や医療費のための備えとして重要なものであり、社会保険料を支払うことで、将来的な年金受給が増えたり医療費の負担が軽減されるため、長期的には個人にとって有益な制度と考えられています。特に、共働き世帯やシングルマザー、独り身の労働者にとっては、老後の安定した生活を送るための重要な要素となります。
さらに、企業で働く労働者の社会保険料は、通常は企業が半分を負担する仕組みになっています。これにより、将来受け取る年金額も増え、個人で加入する国民年金よりも有利な制度となっています。
また、106万円以上の収入を得ているほとんどの労働者は、現時点でも将来の備えとして社会保険料を支払っていることも考慮しなければなりません。なぜなら、現状の制度では、こうした多くの労働者の方の保険料収入で、現在扶養控除で社会保険料の支払いが免除されている人々の将来の年金分を補っているという側面もあるからです。
とはいえ、106万円以下で働いているパートやアルバイトの方々にとっては、急な社会保険料の支払は目先の手取りを減らすことになるため、106万円の壁は死活問題となることもあります。このため、106万円の壁をどうするか、引き上げるのか、据え置くのか、撤廃するのかについては、結論を急がず、十分な議論が必要ではないでしょうか。
さいごに
以上、説明してきましたが、どちらにしても基礎控除額の引き上げは、「働くすべての人々」にとって大きなメリットがあることがわかったのではないでしょうか。手取りが増えることで、生活の質が向上し、消費が活発化することが期待されます。
これにより、経済全体が活性化し、国民の生活がより豊かになることを願ってやみません。このような政策が実現すれば、日本の労働者にとって大きな一歩となることでしょう。
皆さんも、この政策がどれだけ私たちの生活に影響を与えるか、ぜひ考えていただければと思います。
それでは、See You~またの機会にお会いしましょう。